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広島高等裁判所 昭和35年(ネ)87号 判決 1961年12月11日

控訴人 被申請人 忠海第二漁業協同組合 外八名

訴訟代理人 三浦強一

被控訴人 申請人 水野岩松 外二五名

訴訟代理人 原田香留夫

主文

原判決を次のとおり変更する。

一、被控訴人等において金五〇、〇〇〇円の保証を立てることを条件として

(一)控訴人伊勢本花市、同浜川恵、同浜田松市、同大島八松、同湊仁三郎の控訴人組合の理事としての、控訴人浜家市三郎、同浜家市松、同大島代吉の同監事としての各職務の執行を停止し、右理事の職務代行者として被控訴人水野岩松、同角本仲石、同水野久松、同小中岩松を、右監事の職務代行者として被控訴人新角兼松、同小中春三を各選任する。

(二)前項記載の被控訴人等六名を除くその余の被控訴人二〇名はいずれも控訴人組合の組合員たる地位を保有するものとする。

二、被控訴人等のその余の申請を却下する。

三、訴訟費用は第一、二審とも全部控訴人等の連帯負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人等の申請を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の連帯負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。当事者双方の事実上の主張並びに疏明関係は、控訴代理人において当審における控訴人伊勢本花市の本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人において当審における被控訴人水野岩松の本人尋問の結果を援用したほか原判決事実摘示の通りであるからこれを引用する。(但し原判決第一二丁裏四行目から五行目にかけて第一、二、三回とあるのを第一、二回と、同七行目に乙第九号証とあるのを乙第一及び第九号証と各訂正する。)

理由

本件仮処分申請の適否並びに当否に関する当裁判所の判断は、原審認定に反する当審における控訴人伊勢本花市本人尋問の結果は措信しないとし、且つ左記諸点の補足訂正を加えるほか原判決理由第一、第二記載のとおりであるからこれを引用する。

右第一の本件仮処分申請の適否についてと題する記載中原判決第一四丁表末行(本誌六八七頁一一行以下参照)「従つて」以下の部分を次のように訂正する。従つて、右組合においては右商法の諸規定において認められたような形成訴訟としての総会決議の無効の確認又はその取消の訴を直接裁判所に提起することは許されないけれども、総会の決議が不存在又は当然無効であるときには、一般原則に従い、その決議の不存在または無効が現在の権利関係に影響を及ぼす限り、前提問題としてこれを主張することは許されると解すべきである。(同様に形式的には決議の不存在又は無効の確認を求めていても、実質的には該決議に基く権利義務ないし法律関係の存否の確認を求めているものと解し得る場合には、売買契約不存在又は無効確認の形式で売主又は買主としての義務の不存在の確認を求める場合と同様これを適法視して差支えないと考える。)

そうすると、被申請組合の総会の決議が無効であることを前提として申請人等が被申請組合の役員であつて被申請人等がその地位にないことの確認を求める訴も即時確定の利益ある限り適法であつて、かかる訴を本案として右の法律関係が確定しないために申請人等が現在蒙つている著しい損害を避けるために、本案判決の確定するまで暫定的に仮の地位を定めることを目的とする仮処分申請ももとより適法であるといわねばならない。従つて、この点に関する被申請人等の主張は採用することができない。

二、右第二の(一)被保全権利の存否と題する記載の(1) の中原判決第一八丁表五行目以下を次のように補足訂正する。

そうすると、被申請人等はいずれも被申請組合の役員たる地位にないものというべきである。他方、右申請人水野等六名は昭和三三年四月一三日以降夫々被申請組合の理事又は監事たる地位にあつたものというべきであるが、成立に争いない甲第一五号証の五によると、被申請組合の定款において役員の任期は二年と定められていることが認められるから、その後更に役員に選任された形跡の窺われない本件においては、右申請人等が現在既に任期満了により役員たるの地位にないことも明らかである。

三、右第二の(二)本件仮処分の必要性についてと題する記載を次のように訂正する。

被申請組合が昭和三三年二月以降申請人等の組合員たる地位を否認していることは被申請組合の自ら認めるところであつて、これによつて申請人等が組合員として享受することができる利益を不当に侵害されていることは推察に難くない。また、被申請人等が昭和三三年三月一一日以降被申請組合の役員であると僭称して前記申請人水野岩松等六名を排除し、被申請人伊勢本花市を中心にして被申請組合の事業の執行や会計監査等の職務をろう断して来たことは前認定の如き事実関係並びに当事者弁論の全趣旨に徴して明らかであり、成立に争いのない甲第一一号証、第七七ないし第七九号証、第八八ないし第九四号証によると、被申請人等の中心人物である被申請人伊勢本花市は被申請組合の金を横領した不正の容疑極めて濃厚であるに不拘その他の被申請人等はこれを容認ないし黙視していたことが一応認められ、以上の事実に徴すれば本件仮処分の必要性は疏明十分なるものと思料する。

以上説示の如く本件仮処分申請中被控訴人水野岩松等六名の理事又は監事たる仮の地位を定めることを求める部分は被保全権利の存在を認め難いから失当として却下を免れないが、その余の部分はいずれも被保全権利及び保全の必要性の疏明あるものとして認容すべきである。而して、控訴人等の理事監事たる職務の執行を停止する処分については之によつて控訴人組合の役員の曠缺を来すものであるから、附随的に職務代行者の選任が要請せられるところ、本件においては他に職務代行の選任者を見出し難いので、適法に選任せられた直前の理事監事であると一応認められる前記被控訴人水野岩松等六名の前役員等を夫々理事監事の職務代行者に選任するを相当と考える。

よつて、これと一部異る原判決は不当であるから民事訴訟法第三八六条によりこれを変更することとし、訴訟費用の負担について同法第九五条第八九条第九二条但書を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 河相格治 裁判官 胡田勲 裁判官 宮本聖司)

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